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[2019年6月10日号 社説]

「令和」の心の日本人に

 「言霊に込めし令和や若葉風」これはある地方紙に載っていた俳壇の第一席で、評には「言霊の幸(さきわ)う国の『令和』の時代がスタートした。『若葉風』に、平和を願う祝意がこもる」とあった。多くの日本人が新しい御代をそう感じている。
 令和の字が取られた「万葉集」のことを上野誠奈良大学教授は「八世紀の声の缶詰、言葉の文化財」と言う(『「令和」の心がわかる万葉集のことば』幻冬舎)。当時の日本人の言葉が漢字を借りて記録されているからだ。
 語り継いできたから、独特のリズムも伴う。古代人の体のリズムで紡がれたのが万葉の歌と言えよう。

●百舌鳥・古市古墳群
 「万葉集」の言葉で、今では使われないのが「かはたれ時」。彼は誰?と分からない夜明け時。「あたらし」は惜しい、大切なの意味。新しいは「あらたし」と言った。「にほふ」は主に視覚のことで、特に赤や紅について使われた。「三高寮歌」の「紅におう」は古語の使い方になる。
 逆に同じなのは「よのなか」。「よ」は区切られた特定の時間や空間のことで、人の一生も「よ」で、「よのなか」には人生と人の世の二つの意味があると言う。「世の中は 空しきものと 知る時し いよよますます 悲しかりけり」という歌は一種の諦観だが、そこから「世の中、捨てたもんじゃないよ」と立ち直るのが日本人。
 万葉のふるさと奈良の枕詞「あをによし」の「あをに」は青朱ではなく、青い土だそう。奈良のどこかの土が、青色彩色に使われていたという。「あかねさす」は紫の枕詞。あかねは植物の名前で、その根から赤い染料が取れた。「あかねさす 紫草野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る」は天智・天武の2人の天皇から愛された額田王の歌で、古代人のロマンス。
 冒頭を飾る歌も、雄略天皇が菜を摘む娘に「家をおっしゃってください。名を名のってください」と呼びかけるもので、当時の求婚の儀式だろう。大王が娘に敬語を使うのも面白い。
 第21代の雄略天皇は、反抗的な地方豪族を武力でねじ伏せ、ヤマト王権を確立したとされる大王で、『宋書』などに記されたいわゆる「倭の五王」の一人、5世紀末の武に比定され、その名「ワカタケル」を記した刀剣が2点、埼玉県と熊本県の古墳から発掘され、実在がほぼ確定されている最古の天皇である。
 雄略天皇の御陵は5月14日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産登録の事前審査をする国際記念物遺跡会議(イコモス)から登録がふさわしいと勧告を受けた大阪府にある「百舌鳥・古市古墳群」の一つで、日本の国のかたちの基本ができた河内王権の価値が世界的に認められた意義も大きい。
 「万葉集」に最も多く詠まれた植物は141首の萩で、119首の梅に優る。庭先に植えられ、黄葉(もみち)も楽しまれたから。ききょうは薬としても使われ、自然との関係が近かった。
 上野教授は「あとがき」で「大切なことは、地域の子供たちのために、砂場をきれいにしよう…という気持ちを持っている人に対する敬意です。…そういう気持ちがあれば、どうやったら、気持ちのよいごあいさつができるか、…季節の話題で心をなごませることができるようになるか、自然に考えるようになります」と言う。その恩恵を受けながら暮らす自然への愛が、日本人の心と共同体を育ててきたのである。

●深みのある言葉と思考
 さらに最後に「今の日本に求められているのは、深みのある思考に、深みのある言葉です。どんなに統計の数字を並べたとしても、数字をどう読み取り、どう語るかは、人の思考によるものです。私たちは、言葉でものを考えるのですから、その言葉の深みを知ってこそ、深みのある思考もできるのではないでしょうか」と締めている。
 いくらITが発達しても、それが人間不信に基づいて使われると、監視カメラがあふれる中国のような社会になってしまう。人々が支え、慈しみ合う和やかな社会をつくるには、人のため社会のために尽くすことに日常的な喜びを見いだす日本人になりたい。それが「令和」に込められた言霊の意味だと思う。



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