花の彩り

2022年5月10日付 787号

 4月16日から18日にかけて植えたコシヒカリの苗が、少しずつ緑を増し、背を伸ばしている。田植えから2週間ほどは水を満たし、投げ入れた除草剤で草の発生を抑える。次に3日間ほど干し、分けつと根の張りを促すと、再び水を満たす。すると稲は勢いを増し、一斉に成長する。稲田は日ごと緑のグラデーションを深め、やがて一面、緑の草原になる。
 こうした風景を日本人は古代から見続けてきたので、『古事記』に人の誕生を、草が萌え上がるようにと表現したのだろう。稲の育て方は、静岡市の登呂遺跡で見た弥生時代から、変わっていない。そして、毎年、同じことを繰り返し、人が一生を終えても、自然の営みは変わらない。
 そんな田舎の風景に彩りを添えようと、道路わきに花を植えてきた。今はキンセンカにパンジー、ナデシコが咲きそろい、自然に落ちた種からコスモスが背を伸ばしている。数日前から移植しているのはマリーゴールド。鮮やかなオレンジと黄色の花を、5か月間も咲かせてくれるので助かる。今年からコキアが加わり、種は昨年からのリサイクル。耕作放棄地にまいた菜花とクローバーも、年を超えて自ら花を付けるようになるだろう。
 花は人の心を和ませ、微笑みを生む。散歩する知らない女性に声をかけられ、水やり、草取りも楽しくなる。これも聖徳太子の「和を以て貴しとなす」の地域版かなと思いながら、早朝、軽トラに水を満たしたポリタンクを乗せ、花たちのもとに向かう。これが天地子の「即身成仏」。